香りの散歩道




墨絵・朝野泰昌
明治25年の3月1日。
のちに小説家として数多くの名作を世に送り出す、一人の男の子が誕生しました。

芥川龍之介(あくたがわ・りゅうのすけ)です。
映画にもなった『羅生門』や『蜘蛛の糸』などは、ご存じの方も多いでしょう。

では、『鼻』という短編小説を読んだことがありますか。
顔の真ん中にあって匂いを嗅ぐ、あの鼻です。

あるところに、なが〜い鼻をもつお坊さんがいました。
この鼻がコンプレックスだということを、周囲に悟られまいと振る舞うことで、よりいっそう悩みを抱えていたのです。

ある日、弟子が医者から鼻を短くする方法を教わってきました。
すすめられるまま試してみると、長い鼻がウソのように短くなり、「これでもう笑われることはなくなる」と、胸をなでおろしたのでした。
ところが、周囲の反応は違っていました。
短くなった鼻を見た人たちは、以前にも増して嘲笑うようになったのです。

人の心には矛盾した二つの感情があり、他人の不幸に同情はするけれど、不幸を乗り越えると、どこか物足りなさを感じてしまう。それで笑われたのだ。
と気づいたお坊さんは、短い鼻を恨めしく思うようになりました。

そして、熱を出して寝込んだ翌朝、鼻はもとの大きさに戻り、「こうなれば誰にも笑われない」と晴れ晴れした気分になるのでした。

この小説を読んだ夏目漱石(なつめ・そうせき)は、絶賛する手紙を芥川龍之介に送ったそうです。
みなさんは、この話から何を感じましたか。


*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。


『朝野家・香りの散歩道』は朝野家提供で、

毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞に掲載されます。



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