香りの散歩道


三四郎が選んだ香水


墨絵・朝野泰昌



明日、2月9日は、日本を代表する文豪が生まれた日です。
時代が幕末から明治へと大きく変わろうとしていた150年前のこの日、江戸のまちに金之助(きんのすけ)という男の子が誕生しました。
のちに「吾輩は猫である」や「坊ちゃん」など、数多くの名作を世に送りだした夏目漱石です。

今年は生誕150年を祝って、漱石の人生や作品に、ますます注目が集まっているようですね。

漱石が生きた明治という時代は、日本に西洋文化の新しい波が押し寄せた時代。
女性たちが身につけた香水も、その一つでした。

明治41年、漱石が新聞に連載した小説「三四郎」には、香水が登場する印象的な場面があります。
九州から上京した東大生の三四郎は、都会的で自由闊達な女性、美穪子(みねこ)に心をひかれます。
ある日美子と偶然出逢った店で、どの香水を選べば良いか相談を受けた三四郎は、わけもわからずヘリオトロープの香水瓶を手に取りました。

美穪子が買い求めたその香水は、物語の最後に再び登場します。
ヘリオトロープの香りをつけた白いハンケチを、美穪子が三四郎の顔の前に差し出すという、静かで香り高い別れの場面です。

紫色の小さな花を咲かせる甘い香りのヘリオトロープは、日本では香水草(こうすいそう)、フランスでは恋の花と呼ばれています。

夏目漱石がなぜ、数ある香水の中からヘリオトロープを選んだのか・・・その思いを香りで想像してみると、小説の味わいがよりいっそう深みを増してくるかもしれませんね。


*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。

2月分は現在放送中に付き、もう少々お待ちください。


『朝野家・香りの散歩道』は朝野家提供で、

毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞に掲載されます。



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