香りの散歩道


日本語の奥深さ


墨絵・朝野泰昌
 

師走の声を聞くと、街にも、人にも、あわただしい空気が漂うような気がしませんか。
そんな時だからこそ、気分を変えてくれる香りの存在は、ありがたいですね。

梅が香(か)や 師走の闇も 力あり

師走の闇の中でも、梅の香りは力強く感じる・・・という、江戸時代の俳人・中川乙由(なかがわ・おつゆう)の句です。乙由は伊勢の人で、この地に訪れた松尾芭蕉(まつお・ばしょう)に入門したと言われています。

昔の暦の師走は、今の暦では一 月から二月くらいの季節感。
寒々しい景色の中にぽつりと咲いた、梅の花の香りが、闇を照らすように感じられたのかもしれませんね。
それとも、芭蕉との出会いを振 り返って、その衝撃と喜びを梅の香りにたとえたのでしょうか。

そう考えると、自分にとって師走の闇にも香る「梅」に匹敵するものは何だろう・・・と、わが身に置きかえてみたくなりませんか。
俳句の解釈は人それぞれですが、 五・七・五の十七文字で、こんなにも想像を広げてくれる日本語の奥深さを、あらためて感じます。

そろそろ年賀状の準備をはじめ ている方も多いと思いますが、「初春」や「新春」など「春」という言葉を使うのは、梅がほころぶ時期に新年を迎えた時代の名残り。
季節の言葉にも、先人の思いは息づいているのです。


*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。


『朝野家・香りの散歩道』は朝野家提供で、

毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞に掲載されます。



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