香りの散歩道


藤袴


墨絵・朝野泰昌



秋の七草の一つ、藤袴をご覧になったことがありますか。
万葉の昔から日本人に親しまれてきた植物で、夏の終わりから秋にかけて淡い藤色の花を咲かせます。

「名前は聞いたことがあるけれど、どんな花か思い出せない・・・」という方もいらっしゃるでしょう。
無理もありません。
藤袴は残念なことに、環境省の準絶滅危惧種に指定されていて、野に咲く姿を見ることは、なかなかできない花になってしまいました。

ましてや、蘭の花にもたとえられる香りを、実際に嗅いだことがある方は少ないでしょう。
その甘い香りは、平安時代の歌人たちを魅了したようで、『古今和歌集』の中には、秋の野に藤袴の香りが漂う情景を、衣服の袴と重ねて詠んだ、こんな歌があります。

なに人(びと)か きてぬぎかけし 藤袴
くる秋ごとに 野べをにほはす(におわす)

どんな人がやってきて、袴を脱いで掛けたのだろう。
藤袴は、秋がくるたびに野辺を美しく彩り、良い香りを漂わせることよ・・・。
袴を脱ぎ掛けるという表現から、艶(つや)のある歌だとも言われていますが、みなさんは、どのような香りを想像されましたか。

なに人か きてぬぎかけし 藤袴
くる秋ごとに 野べをにほはす

今では貴重な藤袴ですが、運良く出会うことができたら、清楚で麗しい姿だけでなく、香りにも心を寄せてみてはいかがでしょう。


*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。

9月分は現在放送中に付き、もう少々お待ちください。


『朝野家・香りの散歩道』は朝野家提供で、

毎週水曜日FM山陰(16:55~17:00)放送、日本海新聞に掲載されます。



香りの散歩道TOPへ
 /  TOPへ  / 歳時記へ