香りの散歩道


嫁入り道具の「十種香」


墨絵・朝野泰昌

 明治22年、当時は木挽町(こびきちょう)と呼ばれた町に、歌舞伎座が誕生してからおよそ120年。

4月28日の「さよなら公演」の千秋楽をもって、建て替えのため長い休みに入る劇場には、連日たくさんの歌舞伎ファンが訪れています。

江戸っ子を熱狂させた、昔ながらの芝居見物の醍醐味が味わえる桟敷席から、今では歌舞伎座だけに常設されている気軽な幕見席まで、さまざまな楽しみ方ができるのも、歌舞伎座の懐(ふところ)の深さ。

3年後の春、四度目の建て替えで生まれ変わる劇場には、芝居好きに愛されてきた歌舞伎座らしさが、どのように受け継がれるのでしょうね。

日本文化の粋を集めた演出で、観客を楽しませてくれる歌舞伎の舞台。
数ある演目の中には、お香が焚かれるものがあるのをご存じでしょうか。
 
その一つ、『本朝廿四考(ほんちょうにじゅうしこう)』という演目では、上杉謙信(うえすぎ・けんしん)の娘、八重垣姫(やえがきひめ)が、恋しい人のためにお香を焚く「十種香(じゅしゅこう)」という場面があります。

「十種香」というのは、栴檀(せんだん)や沈水(じんすい)など10種類の香木を調合したお香のことで、昔は大名家の子女の嫁入り道具でもあったとか。

その場面では、実際に香炉にくべられたお香の香りが客席に漂い、どんな演出よりも雄弁に、八重垣姫の切ない思いを伝えてくれます。

いつの日か、生まれ変わった歌舞伎座で観てみたい演目の一つです。




*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。



*このコーナーは毎週水曜日に日本海新聞で掲載しています



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