香りの散歩道


江戸時代の天文学者 渋川春海


墨絵・朝野泰昌

 春の海と書いて春海(はるみ)。

この名前を自ら名乗って、ある大仕事を成し遂げた歴史上の人物に、スポットライトが当たっています。

若い読者に人気を集めている、冲方丁(うぶかた・とう)の時代小説『天地明察(てんちめいさつ)』の主人公として、現代によみがえった江戸時代の天文学者、渋川春海(しぶかわ・はるみ)です。

 武士の教養の一つとされた囲碁で、代々将軍家に仕える家柄に生まれながら、算術や天文学に優れた才能を発揮した春海。

小説では、22歳から20数年もの間、天に向かって真剣勝負を挑み、日本で初めて国産の暦(こよみ)、大和暦(やまとれき)を作りあげた渋川春海の、夢をあきらめない一途な生涯が描かれています。

 大和暦が誕生するまで、八百年もの間延々と使われていた宣明暦(せんみょうれき)には、長年の間にズレが生じていました。
暦の誤差は、農作物の収穫にも大きな影響を与え、幕府の財政をもゆるがす一大事。そこで、今でいう理数系男子だった春海に、新たな暦づくりプロジェクトの白羽の矢が当たったのです。

 数学の天才、関孝和(せき・たかかず)との手に汗握る算術勝負と友情。

日本中を歩いて北極星を観測し、天と向き合う喜びを教えてくれた、二人の師から託された思い……。

それらを胸に、天と地を正しく結んで、刀ではなく暦で日本を変えた人物がいたことを教えてくれる、小説『天地明察』。

挫折を繰り返しながら、夢を追いかけようとするすべての人に、熱いエールを贈る一冊です。



*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。



*このコーナーは毎週水曜日に日本海新聞で掲載しています



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