香りの散歩道


「線香が時計がわり」


墨絵・朝野泰昌

 奈良、東大寺の二月堂では、3月1日から14日まで、天下安泰を祈願する「修二会(しゅにえ)」と呼ばれる行事が行われています。

そのハイライトは、明日12日の深夜に行われる「お水取り」。

江戸時代には、最高級のお香の名前「伽羅(きゃら)」という言葉が、ほめ言葉の代名詞として使われていたそうです。

この儀式では、時を知らせるのに香時計(こうどけい)が使われます。


 香時計とは、お香の時計のこと。粉末のお香、抹香(まっこう)が燃えた長さによって時間を計るしくみになっていて、明治時代に暦が新暦に変わるまでは一般家庭でも使われていたそうです。

お香で時間を計る習慣は、日本舞踊や三味線などで客をもてなす、芸妓さんの世界にもありました。
お座敷遊びをするときは時計がわりに線香を焚き、線香が一本燃え尽きたらいくら…という風に料金が決められていたそうです。

 落語にも、こうした習慣が題材になった「立ちぎれ線香」という演目があります。
若旦那が芸妓と恋仲になるのですが、周囲に反対されて会いに行けないうちに、芸妓は病に倒れてしまいます。
亡くなったと知られた若旦那が仏壇にお線香をあげたところ、三味線をつま弾く音が……。

死んだ芸妓が弾いているに違いないと涙ながらに聞いていると、プツッと音が消えてしまいます。
ちょうどそこで、線香が燃え尽きてしまった…というのが話のオチ。
あの世でも、線香が時計がわりだったのですね。

お香を焚いて時を知る。そのゆるやかさは、現代ではうらやましいほど贅沢な時間の過ごし方ではないでしょうか。


*毎週水曜日・FM山陰.他で放送中  ↓mp3です。 wmp等でお聞き下さい。


*このコーナーは毎週木曜日に日本海新聞で掲載しています



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