ヒゲおやじの絵日記/心の旅人

第48話  えらいこっちゃがな (下)

絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家


 「そうだよなー奥さん、企業は夢があり、技術があればうまく行くとは限らんなー」。
しかし、ヤミ金に手を出したあんたが悪いと言ってしまえば酷な気がする。世の中にはもっと悪いヤツがいっぱいいる。

浮世のはかなさ
 はるばる相生から来た女性の話を聞いてそう思った。誰だって失敗もする。まさかの出来事で泣くこともある。だからお互いさま。人は助けたり、助けられたり…だが世の中、そう甘くはない。
金のためなら義理も人情も、血も涙も踏み倒すのが浮世の悲しさだ。
 夫の両親の看病六年間、休日もなく、コマねずみのように、ただ働くだけ。ただでさえ安い工賃を、低いコストの中国製品をチラつかせ、さらに値切る親会社。
文句の一つも言おうもんなら、取引契約書があるわけでなし…しょせん、零細下請け企業は親会社の調整弁なのだ。
 やがて親会社の倒産、ドロン。不渡り。資金繰りは火の車。ここまでくれば、駅のベンチと銀行の冷たさ痛さは世界一―と、お決まりのコースだ。
次に行き着く先は墓場の一丁目。ヤミ金の餌食になり、鉄工所が倒産。そして、まさかの夫の行方不明。自殺未遂と来たわけだ。

本当の人生を歩む
 「奥さんも苦労したんだなー」と言うと、ポツリとこう言った。「落ちぶれてみて、近くにいると思っていた親戚も、周囲も遠かった…物も人も失い、身軽になった分、本物が見えてきた…」とほほ笑んだ。
 これから本当の自分の人生を歩むため、まずはヤミ金対策からと、ヤミ金事務所に乗り込んだ。
 震える気持ちを押し込んで、息子が差し出す三点セット。
@貸金業規制法に違反していること。
A借り入れ金と実際の入金額を記入した取引明細書。
Bヤミ金の貸付行為が違法、無効であり、ヤミ金業者逮捕を報じた新聞記事―。
以上を渡して告発の用意があると告げた。
 事務所に殺気が走った。店長格の男の目が光った。「態度がでかいな。野郎ども、ごあいさつしろ」無表情で大柄な男がいなり息子の胸ぐらをつかみ、どなり散らし、息子の頭を数回机の上に押し付けた。息子の顔は蒼白だった。足がブルブル震えて本当に怖かった。

覚悟はできた!
 その時、息子が必死の声で叫んだ。
「あんたたちを暴対法で告訴する。二人が二時間過ぎても帰らんかったら警察と弁護士がここに来るよう手は打ってあるぞ…」。
一瞬、沈黙が流れた。
 店長格の男が声のトーンを下げて言った。「この書類。不法原因給付ってヤツだろう…ま、話し合おう」。あれだけ脅し付けたヤミ金が豹変した。
変だ…不法原因給付って何だろう。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています


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