ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第4話「村芝居」
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
芝居小屋
『赤城の山も今宵かぎり…』
『イヨッ大統領』
会場から声援が飛ぶ。その時、「大根役者!」と心ないヤジを飛ばした者がいた。それに対して「バカヤロー帰って寝てろ」と応じた。大根役者とヤジッた男が怒った。
「出て来い。この野郎」とドスを抜いた。
会場は騒然となった。男がドスを振り上げたので、会場はドーナツ形に広がった。「バカ野郎と言った野郎、前に出ろ」と凄みをきかせた。 仲間四、五人がドスを光らせた。
◆刃傷事件か◆
村の青年数人が出て来た。「村の衆が楽しんでいる時だから静かに楽しんでほしい」と話したが、酒も手伝ってさらに頭に血をのぼらせた。殺気が走る。会場から悲鳴が上がり、また騒然となった。
芝居どころではなくなった。さっきまで舞台で大見え切って演じていた国定忠治も、思わぬハプニングの真剣勝負に見物する側に回ってしまった。
今にも刃傷事件か、息をのんだその時、えらい体格の良い男が入って来た。
男が入ると人垣は自然に左右に分かれ、男はヅカヅカと輪のまん中に出た。
体格の良い男は着流しの上に”どてら”を肩に引っ掛けて、ドスを手に息巻く男たちの前に悠然と立ち、「お前ら静かにしろ」と一喝した。
雷が落ちたような太く大きく響く声、物事に同じない雰囲気。会場も舞台上の国定忠治も、もちろんドスを振りかざすチンピラも、どてら姿の大男の気迫にド肝を抜かれて青菜に塩。
−どてら姿の大男は後に町のリーダーとなった。若き日のエピソードである。
地域動かす若者◆
昔は都会から遠く離れた山村には文化も娯楽も少なかった。
村人が農作業の疲れを癒(いや)す場は芝居見物でもあった。
若者の唯一の楽しみは青年団活動だった。農作業を終え、夜の公会堂の
裸電球の下で将来の夢を語り合った。結婚問題も語った。
楽しい村づくりの話で夜を明かした。自家用車も、携帯電話もパソコンも何もなかったが、仲間と会うだけで楽しく心強かった。何かに飢えていた。エネルギーに満ちていた。
青年団活動で町や村から助成金もなかった。また当てにもしなかった。
活動資金は持ち寄ったり、旅芝居を呼んで村人を喜ばせて稼いでいた。
いつの時代も若者は地域を動かす原動力だ。若者に元気がなくなると地域は必ず崩壊する。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

ヒゲおやじの絵日記TOPへTOPへ新着情報へ