ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第44話 十二月の離縁状
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家


 長い付き合いじゃないか、もう少し待ってくれよ。仏の顔も三度ちゅうもんだ。アカン、明日は耳をそろえろ、エーか。
これだけ頼んでもあかんのか。チクショー。エーイッ、宝クジでも当てたるかー。買った宝クジが当たった。一億円、夢か、いや本当だ。さあオレは今日から大金持ちだぜ。明日はあのドケチのクソッタレ野郎に耳をそろえて払ってやろうじゃないかーと、大声でどなったら目が覚めてしまった。年の瀬は夢見も悪い。

人生は阿弥陀クジ
 『無理だという思いを捨てろ。負担の気持ちが軽くなる。最後まで全力で手を尽くせ。きっと解決する』 おやじの□ぐせだった。人の生き死に、人生ってやつは、阿弥陀(あみだ)クジみたいなもんだ。右か左か決めた方向で運命が変わる。
 ボクのおやじは二十歳でムコ養子に来た。二十歳、大人って言ってもまた世間知らずのハナたれ小僧だ。口うるさい姑(しゅうとめ)に苦労したらしい。
姑の気にいられるようなことが出釆ないまま、数年の歳月が流れた。つらい中にもニ人のかわいい女の子が生まれた。しかし姑のムコいびりは、さらにエスカレートしていった。

あんたの苦労を私にも…
 おやじはふと、里行きすることになり、子供と妻の顔をしみじみと見つめて家を出た。
数日が過ぎたころ、姑はおふくろを呼び、もうこの家に帰ってくるなと離縁状の手紙を書けと言った。
おふくろは黙ってうなずき、そのように書きますと言っておやじに書き送った。
 数日後、おやじが元気な顔で帰って来た。姑はハトが豆鉄砲を食ったような顔をして、声も出なかったという。
 おふくろが書き送った離縁状には、『早く帰ってきて下さい。子供を父なし子にする気ですか。あんたの苦労を私にも背負わせて下さい』…若い夫婦の絆(きずな)の強さに、姑は口数も少なくなったという。
 かわいいニ人の女の子は病で死んだ。おやじとおふくろは深い悲しみに苦しんだ。
やがてその後、玉のような兄とボクが生まれた。一通のおふくろの機転の効いた、冴えた手紙が書き送られなかったら、この世にボクの存在はなかった。

ひたすらに生きた一年
 人の一生、人の命の不思議さ、十二月はボクの誕生月。好むと好まざるとに関わらず暮れてゆくこの一年。苦労や悲しみを味わった一年。ただひたすらに生きた一年。
 やがて巡りくる新しい年。ボクに命を与えた父に母に創造主に感謝して、すべてをゆだねて生きたい。

 この一年、ヒゲおやじの絵日記を読んで下さった方々に感謝を込めて、新しい年が恵み豊かでありますように・・・。


*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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