ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第39話 大屋の隠し味
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
 また今日も、家内の座布団代わりになって、大屋から明延川に沿って奥へ入って行くと、気どらない風景がボクの心をほぐしてくれた。バス停・和田の角を右に曲がり、杉林の中に続く細い道を進んで行くと、やがて空を仰ぐ空間に数棟の家が現れる。この辺りは大昔、平家の落人が隠れ住んだのが始まりという伝説の地だ。
▽大屋のヒゲおやじ
 一角の食堂の看板に『アルトス・ヴィレッジ・命のパン』とある。好奇心倍増。戸を開けて入ると思わず絶句。全部丸木作りの壁にランプが下がり、西部劇映画シェーンの開拓農家の一場面だ。『いらっしゃい』。すごいヒゲ面の男が現れ、人なつっこい目で笑った。オーッ、大屋のヒゲおやじだがなー。話題豊富、愉快で人情家の戸川さん、五十一歳。控えめで芯が強くやさしい奥さんと、数年前に神戸から不思議な縁で来たという。
 朝日新聞厚生文化事業団との共催で、民間ではまれな野外体験教育キャンプ場だ。ふんだんに資金を投入した行政サイドの施設と違い、ぜいたくな設備はない。だが、人間の狭間に疲れ、重荷を背負ってやってくる人が多いという。そんな人たちが自然の中でご夫婦に触れ、ごく普通の生活の中で一番大切なものは何かを感じ、癒されて帰るという。
▽温かい心を添えて…
 但馬にあって但馬の人が知らない穴場の一つだ。テレビもラジオも新聞、雑誌もない。谷を渡る風の音、谷川の水の音を聞き、涙が流れるという。食事は決まったメニューはない。その時心に感じた料理を出す。なるほど、客にすれば何が出てくるのかな?と思う楽しみがわくという寸法だ。やがて出てきた自家製ざるそばと、野山で採れたありふれた材料に、温かい工夫の心を添えた珍しいおかず数点(詳細は行ってご賞味あれ)。ここにはわれわれがぜいたくを求め過ぎたあまり、いつしか置き忘れてしまった素朴な味、懐かしい味があった。
▽言葉は命のパン
 私たちはぜいたくなものを口に入れたがるくせに、口から出るものは平気で人を傷つけたり、人と人の間に壁をつくる言葉が多いという。人は真実の言葉に出会ったとき、感動し、励まされ、勇気がわき、変えられていくもの、言葉は命のパンだ。質素だが生きる姿勢からにじみ出た言葉が新鮮に感じた。再会を誓い合って夕暮れの大屋路を後にするボクたちに、いつまでも手を振るご夫婦が輝いてみえた。
  ◇ ◇ ◇   
 アルトス・ヴィレッジ・命のパン(電0796―68―0452)要予約、千円からキャンプ形式の宿泊可。
 ホームページアドレス
http://www.altos‐village.com

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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