ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第36話 戦争、悪魔のささやき
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
 早くしないと証言する人間がいなくなる―と言って日本中を走り回っている男がいる。かつて日本が聖戦という名のもとに戦争に駆り出された人たちの生々しい裏話を集めて一冊の文集にしている。すでに第一集の分厚い本が完成した。防衛庁にも送り、感謝の返信が届いたという。
▽内面で勝負する男
 前田喜代和。四十二歳。美方町猪ノ谷出身。市川町で(有)前田技研を経営する社長だ。博学、話題抱負でネタの切れ間がない。絶えずジョークの連発。彼の周りには楽しい人が多い。体裁を気にせず、内面で勝負する男だ。ナメテかかるとビシリと手痛い目にあうのでご用心。小学生のとき、昭和天皇から菊のご紋入り年賀状をもらったという人物だ。
 人類究極の課題、戦争。人間が人間を殺して誉れになる。それが戦争だ。だが、戦争体験者からは苦悩の声が集まる。高齢で記憶も失われつつある。今のうちに記録して後世に伝えなくては取り返しがつかなくなるという。
▽生々しい残虐行為
 証言者の一人、日清、日露、日中、太平洋戦争と七回出兵、九十三歳の男性の話にゾッとした。中国戦線、軍医、助手たちの研究材料として、中国民間人を捕まえて、生きたまま内臓を取り出し切り刻んだり、眼球をえぐり出し、脳みそを取り出したり、生体実験していた残虐行為だ。
 日本の医学技術を高め製薬会社にも貢献するため、大量に進められたという。残虐はヒットラーの専売特許かと思っていたが、日本軍も一歩も引けを取らない残虐行為をやっていたのだ。
▽過去に直視を
 今、靖国と教科書問題で揺れる日本。自国の旧軍隊が隣国で犯した残忍な行為を、なんだかんだと言い訳したり、日本特有の芸・忘れることで風化させていいのだろうか。靖国にしろ、教科書にしろ、ひどい目に遭わされた人びとの身になって考えれば分かることである。
 私たち日本人は、過去を直視しない姿勢が物事をうやむやにし、隣国との間にネジレ現象を起こしているのでは…と、前田さんは話す。戦争体験者の多くが過去を語りたがらないという。その沈黙のなかに、人が人を殺すことの、人が死ぬということの悲しみと絶望の深さを感じるという。人が人を殺す権利など誰にもない。
 人を殺すなかれ…汝の敵を愛せよ…とは、神の言葉だ。

 前田さんは後世に語り継ぐためにも、戦争体験の話や手記を求めています。また、第一集の手記文集をご希望の方は実費(千円)でお渡しするそうです。詳しくは、神崎郡市川町沢45、前田技研、前田喜代和さん
(電0790―28―0508)へ。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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