ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第32話 道草喰えば棒に当たる
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
マンガ
◆授業中の不運?◆
 昭和26年、ボクが中学1年生だった。忘れられない英語の先生がいた。授業の始まる前、日本の国のこと、世界の出来事など解説しながら授業に入るのだ。『日本は戦争して貧乏し、負けて占領国になって苦労してきたが、今、独立国となった。これからは世界の国々と競争しながら仲ようしていかんならん。そのために英語が必要となるんだ。ボーッとせんと覚え』
◆奇襲攻撃にパニック◆
 英語の苦手なボクは、缶詰のカンの文字が読めりゃエーわいと高をくくっていた。授業中はひたすらマンガを描いていた。そんなボクの身の上に、まさかの不運が襲った。
 おとなしく存在感のない無防備状態のボクに、先生は意地悪なうす笑いを浮かべ、奇襲攻撃に出たのだ。
『井上、レッスン5を読め』
とご指名してきた。不意を突かれたボクはパニックとなり、うろたえて反撃の態勢を整える余裕もなく立ち上がり、トンチンカンな答えをしたので、教室は大爆笑の渦となった。先生はボクをめがけてツカツカと近づいて来た。
◆ジャジャジャジャーン◆
 視線をマンガで舞い狂ったノートに集中させた。ベートーベンの運命が頭を駆け巡った。一巻の終わりか、ああ神さま女神さま… 首を縮め、息を殺してゲンコツの洗礼に備えた。もちろん教室は水を打ったようになった。と、次の瞬間、奇跡は起こった。ボクは女神の存在を認める事態となったのだ。先生の大笑いが教室を包んだ。『うまい!』
 意外な展開に教室も安どの笑いが流れた。それ以来、先生の授業が大好きになった。しかし、ボクの英語力は一向に上達しなかったのも事実だ。
◆忘れられない恩師◆
 時は流れ、もう70いくつの恩師は今だ健在。会えば師弟の見分けもつかないくらい見事にハゲた美形の頭の持ち主となった二人だが、遠い地から今も便りが届く。授業中、道草ばかり喰っていた君、どうせ今も変わらんだろう。人間誰だって道草を喰いながら歩けば棒に当たるもんだよ。道草を喰って成長するのも事実だ…と。人はいくつになっても親の恩を忘れないように、いくつになっても恩師も忘れられないものだ。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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