ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第30話 サンキュー貧乏さん
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
サンキュー貧乏さん
◆サバ缶のごちそう◆
 八鹿町に維田幹さんという精神に筋金の一本通った人生の達人に出会った。昔話をするようになったら老いぼれた証拠と言いながら、昭和二十年代からの話に花を咲かせた。
 あのころは食う物も着るものもなく、貧乏にあえいでいた。ボクも貧しい農家に育った。サツマイモが毎日の食事だった。つぎはぎの服や靴を履いて学校に行った。月に一度か二度、サバの缶詰を買ってきて、家族六人で突っつき合って食うのが最高の食事だった。それが楽しく、おいしかった。
◆不幸のなかの幸福求めて◆
 村中の家が貧しかったが、実に個性的で、たくましい大人たちが大勢住んでいた。今の大人たちのように知的でスマートではなかったが、お人よしでひょうきんだった。どこの家の子供であろうが、いけないことをしたら怒鳴った、叱った、注意してくれた。親や先生やおまわりさんに告げ口をする必要もなかった。大人たちは貧しさに耐えながら、生命を全力で燃やしていた。
現代のように、子供の教育のために何かをしてやろうなんて考えはなかった。大人も子供もその日を生きるための戦力だった。みんなが貧しさに耐えながら命を燃焼させていた。言い換えれば、不幸のなかで幸福を必死で探して生きていた。
◆貧しくても輝く人生◆
 不況と言いながら、贅沢な暮らしのなかで生きている私たちは、当時の人々に比べものにならないくらい生活や生き方に輝きを失ってしまっている。それでも繁栄を願うとするなら、そこには幸福なんてありはしない。月に一度か二度、サバ缶を突っつき合って育ったボクは貧しかったが幸せだった。貧困のなかで育ててくれた親や村の大人たちに『貧乏さんありがとう』と言いたい。
平成不況なんてクソ喰らえ、と思うこのごろだ。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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