ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第2話「魔物」
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
魔物
質素だが人情豊かで平和な村があった。この村に、いつのころからか満月の夜になると、怪しげな魔物が覆いかぶさって灰色の息を吹きつけては、村人の魂を吸い取ってどこかへ消えて行くようになった。
◆魂の抜け殻◆
 魂を吸い取られた村人は朝から酒を呑み、仕事もせずに人の噂話や愚痴に明け暮れるようになっていた。人を敬い愛し、支え合い敬虔(けん)に生きる心を失ってしまったのだ。村に潤いがなくなり、寂れていく様子に村長は嘆き悲しんだ。
 ある夜、村長の夢枕に使者が現れてこう言った。
「高き山に登り、月の雫(しずく)で清めた矢で射よ」
 不思議なお告げを聞いた村長は倅(せがれ)を呼び、「山に登り、魔物を退治して村を救うよう」に命じた。
 父の言葉に従った倅は山に向かった。一人息子を山へ送った村長は苦しみのあまり胸をかきむしり、灰を口にして悲しんだ。
魔物が消えると倅の命も消えるーと使者から聞いていたからだ。
◆愛と勇気◆
 山の頂上に登った倅は三日三晩、天に祈り、月の雫で矢を清めて魔物を待った。
 山の向こうから満月が昇り、村が青く浮かび上がると、西の空から魔物が灰色の息を吹きながら現れて目の前に迫った。はやる心と高鳴る胸を抑え、弓を満月に絞った。
 「天地全能の神よ、我に力を・・・」
 放たれた矢は魔物の目に飛び込んだ。やがて夜が明けた。が、何日過ぎても倅は帰って来なかった。
 村人たちは村長親子の愛と勇気に心打たれ、二人を敬い続けた。本当の魔物は自分たちの心の中にいたことに気づき、他者を支え、村を守ることの大切さを学んだという。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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