ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第25話 昔むかしのことだった
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
夏の夜話
 村岡町福岡に兎塚村役場があったころ、夜になると若者や子供たちがよく役場に遊びに行ったものだ。運よい時、大林又兵衛という市川団十郎に似た村長さんがいて、昔話をしてくれた。大昔の伝説だがな…で始まる村長さんの味のある語り口調が妙に子供たちに人気があった。
◆旅の僧侶◆
 江戸時代にな、八井谷峠のふもとにな、仲のエー百姓が暮らしとってな…その年は日照り続きで、田畑が枯れ、飲み水にもこと欠き、困り果てて、お殿様に助けを求めたが、欲が深く貧乏人には冷たいお殿様は取り合わなかった。
 しばらくして、厚い昼下がりに、一人旅の僧が八井谷峠にたどり着き、旅の疲れでバッタリ倒れた。村人は心配して、貴重な水と食料を持ち寄り、手厚く介抱した。
 元気を取り戻した僧は礼を言って峠を登って行った。頂上付近で村を見下ろして、人情厚い村人の幸せを一晩中祈った。朝になって村人たちは峠を見上げて仰天した。
◆通じた祈り◆
 天にも届くカツラの大木が一夜の内に出現して、木の股から水があふれ出して田畑を潤(うるお)していた。それどころか、百姓の家々の井戸からくみ上げる水が、アッという間に黄金に変わった。
 うわさを聞いた欲張りのお殿様は家来を連れてきて、井戸を自分の物にした。お殿様が自ら井戸水をくみ上げると、不思議なことに水は真っ赤な血の色に変わった。腹を立てたお殿様は刀を抜き、井戸に切り付けた。
 すると井戸の中から真っ白な大蛇が現れ、口から炎を吐き付けた。大蛇の後ろには旅の僧がキリリと立って、お殿様をにらみ付けていた。腰を抜かし震えあがるお殿様に僧は言った。
◆不便でも心は豊か◆
 『藩主のために、民百姓がいるのではない。民百姓のために藩主がある。藩主自ら動いてこそ、民百姓は心を動かすものだ』
 それ以来、お殿様は人が変わったように鍬(くわ)を持ち、百姓と共に汗をかいたとや…何もかも不便で貧しい時代だったが、今よりも心豊かで人情あふれた村だった。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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