ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第22話 峠の神様おしゃか様
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
夏の夜話
 人の一生行く道に、七坂千里の坂がある。思わぬ事態にぶつかって、まさかまさかのいばら道。思案六方泣かされて、途方に暮れる坂もある。
 忘れもしない夏だった。激しい雨の夏だった。それこそまさかの出来事で、お金の歯車逆回り。どうするそうするさあ大変。日夜あちこち金策に、走り回るが空回り。
 お先真っ暗、目は真っ赤。まるでお化けか幽霊の、顔ぶら下げ入った銀行。顔を洗ってまた来いあした。けんもほろろに追い出され、泣きの涙であてもなく、あちこち車で雨の中。
 心細さで途方に暮れて、頭をかすめる不吉な予感。ドボンと飛び込む川の渕。ぶらりと下がる松の枝。うち消す思いで頭を振れば、家族の笑顔が心に揺れる。

 橋を渡れば峠道。せわしく動くワイパーの向こうは大雨、滝の雨。目に飛び込んだ自転車の、ずぶ濡れビショ濡れ高校生。一点見据えて踏むペダル。男の執念ド根性。負けるな、ひるむな高校生。ここが勝負の峠道。北風、雨風、向かい風。男の意地の見せどころ。ついに登った峠道。思わず感動こみ上げて、熱い涙がポロポロと、落ちて染み込む胸の中。
 そうだ解った、その意気だ。夢も希望も失いかけて、ヤケのヤンパチ、泣きベソ小ベソ。寸での所で土左衛門。七転八起(しちてんはちき)の試練の峠。朝星夜星の修行の末に、やっとおいらに陽も差した。

 ある日ひょっこり現れて、おじさん元気か達者でか。峠で出会った高校生。聞けばハチ北スキー場、ささや旅館の御曹司。姓は西村、名は昌樹。名のる姿の好青年。あんたのお陰で助かった。あんたは神様、おしゃか様。そばに寄り添うもう一人。澄んだ瞳の素敵な彼女。大安吉日好日に、めでためでたの若松様。
 夜空にポッカリ月が出て、ニッコリ笑って言ったとさ。
 人は誰でも不思議な出会い。出会いがあるから生きられる。誰も味わう人生峠。転んで起きてまた転び、耐えて登れば花が咲く。


*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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