ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第21話 夏の夜話
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
夏の夜話

世の中には科学性、合理性を超えた得体の知れない不思議な体験を持つ人が居るものだ。緑と霧に包まれた関宮町別宮の『民宿ちさと』の上野初野さん(61)を訪ねた。
◆光り輝く物体◆
上野さんの話によると、それは昭和五十一年九月四日の雲一つない快晴の夕暮れに、二階の窓から氷ノ山が一望できる部屋で高校三年生の娘さんと仕事をしている時だった。陽が西の窓から姿を消して、辺りが暗くなったので灯りをつけようと思ったころ、急に窓が明るくなったので外を見て驚いた。
氷ノ山の頂上付近にだいだい色の円盤のような物体が半円を描きながらゆっくりと下りるのを目撃したという。その時とても大きく感じたそうな。そして円盤の下から淡いだいだい色とピンク色の光り輝く放射状のものが下に向かって下りて行き、それが見たこともない美しい色だったという。
高三の娘さんがお隣に見るよう電話を掛けに立ったその時、放射状の光が円盤の中に吸い込まれて消えて、ゆっくりと半円を描いて鳥取県側に去ってしまったとのこと。しばらく放心状態になり、これはキツネにつままれたのかも知れないと思ったという。
この現象を大久保地区の消防団も訓練中に集団で目撃していた。夜が明け、朝になると元気な男たちが山に登り、物体の形跡を探したが何一つそれらしき形跡は見つからなかったそうだ。
◆かなた宇宙のかぐや姫◆
上野さん母娘は毎年九月四日になると、もう一度あの美しい物体を見たくて夕暮れの氷ノ山を見上げるという。何も証明する物はないまま、あの現象は風化されてきたが、もしかしたら遙か彼方の宇宙からやって来た夏の終わりのかぐや姫だったのかも知れない。
いずれにしても現実を忘れて上野さんを訪ねて夏の夜話を聞くのも悪くはない。心優しく懐かしいおふくろさんのような素敵な人だ。


*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

ヒゲおやじの絵日記TOPへTOPへ新着情報へ