ヒゲおやじの絵日記/心の旅人

第1話「雪下ろし」



絵と文・猪熊燻太郎

雪下ろし


 雪が家々の屋根に大盛りになってくると、何十年も昔の子供時代の思い出が降る雪のように積もってくる。
学校の屋根にどっさりと雪が降ると、上級生は男先生と一緒に屋根に上がるのだ。
大屋根の上は怖くて足が震えたが、下を見ると下級生や女子生徒が見上げているので、みんな平気な顔を装って雪を落とした。


 「この校舎はおじいさんになっとるから雪を落として楽にしたらんとな。よう頑張ってくれた」
 男先生がつぶやきながら雪を下ろしていた姿を思い出す。
昔は親や業者が来て何でもかんでもやってくれる今世とは違い、自分たちの学校は出来るだけ自分たちで守らんと誰もやってくれないということもあるが、物を大切にする精神と愛情が育っていた。


 先生はよく話し、よく笑い、よく怒った。
よく一緒に遊んでくれた、よく叱られた、よく殴られた。
紫に腫(は)れ上がった顔をぶら下げて家に帰ったら、 おふくろにはり倒されて、学校にまた引きずられて行き、先生の前でおふくろは米搗(つ)きバッタみたいに何度も頭を下げて、「うちの子が悪うございました」とあやまりに行く時代であった。
あれから何十年過ぎて先生に殴られた少年のほっぺが今は懐かしく、温かい。
 先生は、社会に出たら金を儲けて贅沢な生活をするように勉強せい、とは一度も話さなかった。


 夢を持て、希望を失うな、野山の草木は一度切り倒しても雨が降れば再び芽を出して大きく茂る。
人は一度死ねば永遠の死出の旅人だ。
人は夢を実現させるために生まれてきたんだ。一生なんて短かすぎるくらいだ。
失敗したってくじけるな、頑張れ〜と語ってくれた。
 よく人と会うと、あいさつ言葉に「儲けとるかえ」と交わす。
子供のころ語ってくれた先生の夢とは「儲けとるかえ」では決してないのだ。