ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第11話「大泥棒」
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
菊の花咲く秋のころ、景気は良くなり上向くと、言った直後にまた落ちて、桜の花咲く春の日に、底つき横ばい下げ止まり。気休めばかりのお偉いさん。待ってられない今日あした。ボクの商売火の車。
 カラスカーカー日が暮れて、夜空にポッカリお月さん。きっといつかその内と、逃れ続けた言い訳も、 仏の顔も三度切り。今夜が限界、後がない。明日はきっとやってくる。怖い顔した銀行マン。
 語れば苦心の研究も、夢と希望に支えられ、今夜実る新兵器。街の灯りが眠るころ、ついに完成(できた)ぜ空飛ぶマント。パッと身に着け、見栄を切り、ボクは今夜は大泥棒。助手の黒猫すて丸と、すっくと立った大屋根で、呪文を唱えて飛び出した。助けてくださいお月さん。ボクはあんたが神様だ。誰が見たって黄金(こがね)色。
ちょっと失敬いただくよ。力まかせにもぎ取った、月の欠片(かけら)を小脇に抱え、ごめんよ勘弁お月さん。あんたにゃ何の恨みもないけれど、きっといつか返しにくるからそれまでは、 三日月、この月、おぼろ月。三年昔の猫の年。忘れたころにやって来て、あんときゃほんとに助かった。ほんの気持ちだありがとう。おだんご供えて柏手打って、お礼に来るまで出世払いだ、催促なし。早く帰らにゃ夜が明けて、怖い顔した銀行マン。やって来るからあばよおさらばお月さん。
 ちょいとお待ちよ大泥棒。返さなくてもあげるから、何があっても起こっても、夢と希望に輝いて、生きておくれよ大泥棒。
 あんたのご恩忘れるものかお月さん。空飛ぶマントをひるがえし、静かに眠る街の上。家の窓から飛び込んだ。雀(すずめ)チュンで夜が明けた。ボクは今日から億万長者の花盛り。今日こそは、耳を揃えて払ってやろうじゃないかと大声で、怒鳴ったとたんに目が覚めた…。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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