ヒゲおやじの絵日記/心の旅人
第10話「おかめと源太」
絵と文・猪熊燻太郎/提供・朝野家
源太
雪が解けてコブシの花が山々を包んだ。ある山奥に、暮らしは貧しくつましいが、 心の優しい源太という若者が寝たきりのおっ母(かあ)の世話をしながら暮らしていた。
ある日、月が裏山から覗(のぞ)き込むようにして昇るころ、源太がおっ母と夕飯(めし)を食っていると戸をたたく音がした。開けてみると、そこにはえらい不器量な若い女が立っていた。

◆おかめの秘密◆
おかめという女でめっぽう遠い所から旅をして来たという。夜になり困ったので一晩泊めてくれと 何度も頭を下げられ、源太は気の毒に思って家の中に入れたのだった。
やがて気が付くと、おかめは源太の嫁になっていた。よく気が付き、おっ母の世話もこころよくするのでおっ母も泣いて喜んだ。そして不思議なことに、おかめが来てからというものは暮らしが楽になっていたのだ。
おかめには妙な癖(くせ)があり、月夜の晩に必ず出て行き、帰ってくると着物がビッショリ濡れていた。心配した源太はある晩、おかめの跡をつけ、木陰に隠れて様子を見ていた。おかめがじる田の中で水面に映る
月の影をザルで掬(すく)い上げると、ザルの中は黄金(こがね)に変わっていたのだ。
黄金の輝きに浮かぶおかめの顔を見て、源太は腰を抜かすほど驚いた。錦絵から出て来たような上品な女だった。

◆心優しい源太◆
思わず叫んだ声におかめが気付き、源太に近づいて来て言った。
『お前さんのお嫁になるために月から下りて来たのですが、本当の顔を知られたから 月に帰らねばならないのです。不器量な顔で現れたのに、お前さんはとても優しかった。
心に裏表のないええ男だった。世話になったお礼にこのザルを置いて行きます。
月夜の晩に一度だけ使うとよい。黄金を掬った分、月は欠けて三日月になって行きますが、 難義をして泣いている人が居たら優しく助けてあげてください。やがて月はまた満ちてくるでしょう』
言い終わると、おかめは月の夜空に舞い上がって行った。静かな夜の山々に、おかめを呼ぶ源太の悲しげな声がこだまして行った。

*このコーナーは毎週日本海新聞で掲載しています

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